企業の電話料金はデータ通信費も含めて膨大である。これが、2分の1、3分の1 にコストが下がるので、IP電話化のトレンドは止まらない。 国内、海外の単身赴任者の電話料金が非常に安くなる。特に、海外への単身赴任者の IP電話料金の安さはうれしさを通り越して怒りがこみ上げてくる。今までの料金は何 だったのか、今までの料金を返せと。

電話事業は19世紀に始まり、時代を反映して各国は開発費をつぎ込み、電話を軍事 目的に多用した。初期にはリレー(継電器)、真空管を使って自動化していた電話交換 機は、第二次世界大戦後トランジスタの発明および集積回路の発明により、やがて音声 のみならず、データ、図、写真、動画をやりとりしようと動き始めた。この業界を通信 産業という。

一方、トランジスタが発明された頃、リレー、真空管を使った電子計算機が発明され、 科学技術計算、カメラのレンズの設計などに使われた。やがて、トランジスタや集積回 路を使った電子計算機がIBMによって商品化され、ホスト集中型といわれる電算機シ ステムを社会に供給し、銀行のオンラインシステム、航空会社の予約システムなど社会 システムを効率化した。

1975年頃、ワークステーション(WS: unixをOSとするPCよりワンランク上の コンピュータ)、パーソナルコンピュータ(PC)が発明される。WSとPCの出現により、 IBMの支配力は低下しCPUメーカーのインテル、パソコンOSのソフトウエアメーカ ーのマイクロソフトを代表とするベンチャーが急成長する。この業界を情報産業という。 従来の高い料金の電話は通信産業が提供するもの、IP電話は通信の基盤を利用した 情報産業が提供するものである。

この報告は、今までの料金は何だったのかを解き明かし、IP電話はなぜ安いのかを 明確にしたい。

19世紀にグラハムベルが発明した電話は、同じ建物にいる弟子にワトソン君来てく れたまえ、と呼び出すだけの交換機がない電話だった。1935年頃日本で使われてい た電話は、受話器をとり上げるともしもしと言って交換局にいる交換手が出てくる。○ ○番お願いします、というと交換手は手で相手の番号にプラグを差し込んで接続する方 法であった。

第二次世界大戦後、関東圏では交換手が手で接続する方法は使用されなくなったが、 昭和42年、気仙沼市で使用していたのを目撃している。電話局は24時間体制なので 人件費がかかり徐々に自動交換機が開発され、使用され始めた。

2.2 アナログ自動交換機(機械式交換機)

1930年代から1980年にかけて機械式の自動交換機が使われた。ストロージャ式、 EMD交換機、クロスバー交換機などである(1)。電磁石、バネ、接点材で組み立てられ たリレー(継電器)および真空管を多数組み立て、ユーザがまわしたダイヤルからのパ ルス信号を受け取り、相手の交換局と相手番号を相手の交換局の交換機内で接続する。 大掛かりな設備である上に、リレーはon、offを何回も繰り返すうちに接点が摩耗し たり、導通不良をおこす。バネ材料は疲労破壊する。真空管のタングステンフィラメン トは、24時間稼動の電話局では寿命は1年以下であった。これらの保守に多大の費用 がかかる。

電話局と電話局の間は有線と無線を二重に設備して中継し、故障のない高信頼の電話 設備とした。なぜなら電話設備を国家安全保障の一翼として重要視し、国家が管理して いたからである。電話設備の主な利用目的は、むしろ国家安全保障の通信で、最近まで 無故障のためならいくら費用がかかってもいいという姿勢で電話事業が行われていた。 企業と家庭も、電話を使用した方が時間と費用が節約できる場面が多々あったので、電 話は多いに利用した。しかし、企業と家庭は、必要以上に高信頼な電話を、高額な電話 料金で使用していたのである。これが、従来の電話料金が高い第一の理由である。

第二の理由は、次のようである。アナログ交換機、ディジタル交換機の働きを例える なら、高速のベルトコンベアを送信する人と受信する人の間に敷設して通信するという ベルトコンベアを2者で占有して使うようなものである。高価なアナログ交換機、ディ ジタル交換機を限られた人数で占有して使う方式であることが、従来の電話料金が高い 理由である。

2.3 ディジタル交換機(電子交換機)

リレーや真空管の働きを接点や真空を使用せずに固体の中の電気回路で実現できな いか、という目的で1948年に半導体を使ったトランジスタがベル研究所で発明され た。トランジスタの発明は、20世紀最大の発明といわれる技術である。やがて、複数 のトランジスタ、ダイオード、抵抗、コンデンサ、配線を組み込んだ集積回路が発明さ れ、その後半導体技術は発展を続け、LSI(Large Scale Integration)技術はなお発展途 上である。LSIを使用して開発されたのが電子交換機である。クロスバー交換機に比較 して、部品の故障は激減し保守のコストは減少した。しかし、なぜか料金は高いままで あった。電子メールがない時代には、電話は仕事、生活に必需品であった。

米国のAT&T、英国のBT、NTT、ドイツテレコム、フランステレコムなどが4年 に一度集まり(CCITT: International Telegraph and Telephone Consultive Committee)、世界各国が通信可能な電子交換機を開発した。これを各国に持ち帰り製 品化した。この電子交換機を利用して音声電話とデータ通信を実現しようとしたのが ISDNである。料金が高い上に遅いのでインターネットの通信基盤とはなりえず失敗に 終わった。さらに、音声、文字、図、写真、動画などのメディアをやりとり可能にする ためにCCITTはITUと名前を変えてATM(Asynchronous Transfer Mode)交換機 を開発したが、高価すぎて普及していない。

2.4 世界の通信業界の動きと各国通信業界の独占体質

2.4.1世界の通信業界の動き

人々の仕事、生活、娯楽を快適なものにするインターネット社会の基盤の管理が、国 家安全保障のために使われていた時代の国ごとの規制が残っていたのでは、世界的にネ ットワーク接続して使うインターネット社会への移行を阻害する。これを正すために、 1994年5月、WTO(World Trade Organization)は、参加69ケ国、地域間で基本 電気通信交渉を開始した。1997年2月、参加している69ケ国、地域が、加盟国の 通信会社の外資規制が撤廃されることに合意し、批准した。

2.4.2 米国通信業界の独占体質

米国のAT&Tはグラハムベルが設立した会社であるが、設立後100年で米国の通 信業界を独占した。独占すると、サービスが悪い、料金は高いまま、通信業に新規参入 を妨害するなど良くない行動をとるので、独占禁止法で律せられてきたが、AT&Tは 何度も独占禁止法違反で裁判沙汰になっている。その中で、1974年から始まった裁 判の結果、1984年にAT&Tは長距離電話会社、ベル研究所、ルーセントテクノロジ、 7つの地域電話会社に分割された。

1990年代に入りインターネットが普及し始めると、通信設備がインターネットの 基盤となる必要があり、インターネットの基盤はどうあるべきか、クリントン政権は議 論した。その結果、1996年米国通信法を改正した。改正の内容は、これまで存在し ていた通信業の地域、長距離、国際、携帯電話、衛星通信の垣根をなくし自由に参入し てよい、というものである。インターネットの基盤を提供するためには、地域、長距離、 国際、携帯電話、衛星通信の5つの機能が必要である、からである。

AT&TはCATV、携帯電話をいくつか買収し、BTと提携して、世界のインターネ ットの基盤となることをめざし始めた。

2.4.3 日本の通信業界の独占体質

日本の通信事業は米国のAT&Tとは異なり、最初は逓信省という行政機関が国益の ため、すなわち軍事目的で整備していた。国民のニーズは後回しのまま、第二次世界大 戦は終了した。終戦後は、郵政省が通信業を経営していたが、時代の流れで1952年 日本電信電話公社、国際電信電話会社という半官半民の会社となった。しかし、独占企 業なので、電話加入を申し込んでも対応が遅い、諸外国に比較して料金が高い、サービ スが悪いなど独占の弊害が顕在していた。

1985年、日本電信電話公社、国際電信電話会社の非効率経営を見かねた土光敏夫 氏が、臨時行政調査会で議論した結果をふまえて日本電信電話公社の民営化と分割を勧 告した。米国のAT&Tが10の会社に分割した頃である。これに対し、郵政省、日本 電信電話公社、全電通労組はこぞって反対し、分割を先送りした(2)。

1999年、日本電信電話公社から名を変えたNTTの分割はやむなきに至り、持ち株 会社のもとに3社に分割した。インターネットの基盤を提供するためには、地域、長 距離、国際、携帯電話、衛星通信の5つの機能が必要である、という時代になってか らの分割は滑稽である。このように従来の通信産業が提供する電話は、国家安全保障の 名を借りた護送船団方式による高い料金であったのである(2)。

  • IP電話は情報産業から出現

    3.1 ホスト集中型の電算機システム

    コンピュータネットワーク利用のはじまりは1960年頃と古い。ネットワーク利用 のはじまりは、大型コンピュータ利用のはじまりとほぼ一致する。大型コンピュータの 能力は価格の二乗に比例するので、科学技術計算のTSS利用、国鉄時代からのみどり の窓口、銀行のオンラインシステム、航空会社の予約システムなどが大型コンピュータ 1台を中心において、コンピュータをネットワーク経由で多くの人が共用する形で使用 していた。

    1974年に、IBMはIBMのコンピュータ同志および端末を接続して情報のやりとり を可能にするSNA(Systems Network Architecture)というプロトコルを発売した。 三菱、住友などの大手銀行は本店や支店に設置したIBMの大型コンピュータや端末を 接続して銀行の業務を効率化した。顧客も窓口で待たされる時間が短くなった。同様に、 第一勧業銀行は富士通のFNA(Fujitsu Network Architecture)というプロトコルを 使ったオンラインシステムを導入した。このように各銀行がばらばらなプロトコルを採 用してオンラインシステムを構築した結果、銀行同志の決済は別のシステムに再入力し た。これを解決したのが全銀手順(プロトコル)を使った全銀システム(3)であるが、 これまで使用してきたSNA、FNA、DINAなどのプロトコルをこれに変換することで、 データのやりとりを可能にした。それでも面倒であるが、別のシステムに入力しなおす より効率はよくなった。

    このようにコンピュータを利用すると効率化するが、銀行のオンラインシステムや全 銀システムなどのように国内はもとより、世界中の企業や銀行と決済業務を行うために は、銀行内の本支店の情報をやりとりができるシステムで、取引先企業や国内の他の銀 行、他国の銀行とも電子的に決済する方が速くて誤りが少なく、コストが低く、効率的 であることがわかってきた。そして世界中いたるところに相互接続されていないコンピ ュータネットワークが構築され使用されていた。

    初期のコンピュータネットワークシステムのもう一つの特徴は、巨大なコンピュータ メーカーがコンピュータ本体、ネットワーク、端末などすべてのハードウエア、基本ソ フト、アプリケーションソフトなど情報システムすべてをユーザに供給していたことで ある。これが企業間、国際間の情報のやりとりを不可能にしていた。というより初めは そこまでコンピュータネットワークで情報のやりとりが発展するとは考えていなかっ たというべきであろう。

    3.2 分散コンピューティング

    3.2.1分散コンピューティングのはじまり

    分散コンピューティングは、ゼロックスのPARC(Palo Alto Research Center)か ら始まった(4)。1970年当時のゼロックスは、コピー機ビジネスで利益をあげていた が、この紙大量消費型の事務処理方法が未来永劫続くわけがない、オフィスオートメー ションの時代になると予想したゼロックスの幹部が、ボブテーラーを部門の長とした約50 人の研究員でPARCの中に少数精鋭の部門を設立した。その結果、スターというワークステーショ ン(WS)と、アルトというスターの廉価版を試作した。スターとアルトにビットマップ ディスプレイ、マウス、イーサネット、アイコン、グラフィカルユーザインタフェース、 レーザプリンタなど現在、PC上で使われる技術の大部分をに組み込んだ。このプロジェクトは 技術的術に大成功で、ボブテーラーの研究マネジメントそのものも高く評価され、 研究マネジメントはかくあるべしという手本になった。

    スターアルトの商品化を検討したゼロックスの幹部は、スターのみを量産化して発売すると 決定した。しかし、量産化は中々進まず5年が経過するうちに、1981年、IBMがIBMPCを 発売すると、まったく売れなくなった。これが古い大企業の遅いペースでビジネスをすると、 とんでもない間違いを起こすという悪例となった。先見の明はあったのだが、実際にスター を使用するユーザの動きの早さを知らないというあやまちを犯した。

    スターの製造が遅れ市場になかなか出荷できないのを見たのPARCの研究員は、PARCを やめて会社を設立したり、スカウトされ今日のベンチャ−ビジネスの立役者となった。 これが、分散コンピューティングのはじまりである。

    3.2.2 イーサネット

    1983年、ロバートメトカルフェはPARCにおいて、イーサネットを開発した。コ ンピュータ同士のデータの転送、コンピュータからプリンタへの転送速度が9600 bps程度であるとA4 1枚の転送に10分以上の時間がかかる。これを解決するため に、パケット技術、パケットの衝突をさける技術、ベースバンドという高周波を使用す る技術で10 Mbpsという高速転送を実現した。

    一本のイーサネットに接続できるコンピュータ数には限りがあるので、3.2.3で述べ るルータなどにより、大きい組織では複数のイーサネットを接続して使う。これをLAN という。LANをISPなどを介して接続したネットワークがインターネットである。

    3.2.3 ルータ

    インターネットに接続されたWSやPCに世界一意につけられた32ビットのIPア ドレスを手がかりに経路制御を行う機器である。IPアドレスはインターネットの中で 世界一意の電話番号の役割を果たしている。ルータは接続している親ネットワークおよ び子のネットワークに接続しているWSやPCのIPアドレスを経路制御情報として持 ち、ルータに来たパケットのIPアドレスと経路制御情報を照合し、パケットをあて先 に近づく方向に送り出す。これをインターネットに接続しているすべてのルータが実行 することにより、メール、遠隔ログイン、ファイル転送、ブラウジングなどを可能にし ている。音声はVoIPゲートキーパ(4.2.2参照)においてパケット化され、電話番号か ら変換されたIPアドレスをつけインターネットのルータに送り出され、他のパケット と同様にあつかわれる。これがルータによる電話交換である。

    3.2.4 インターネット

    インターネットの始まりは1969年である。2章で述べた電話交換機を軍事作戦に 使用した通信網では、中心の電話交換機をミサイル攻撃されると、通信網全体が機能し なくなるので、通信の中心をなくする通信技術を開発しはじめた。それは ARPANET(Advanced Research Project Agency)である。ここで、1975年に後 にインターネットの通信規約となるTCP/IPが開発された。

    2.2で述べたように、従来の電話は発信者と受信者が回線1本を占有する。TCP/IP の技術はパケット方式である。データや音声を小包にしてあて先(IPアドレス)をつ けて送り出す。パケット方式は高速道路をイメージするとよい。パケットを乗用車に乗 せ、いくつかのインターチェンジを経由して目的地へ運ぶが、何台もの乗用車がぶつか らないように同時に通る。この方が、1本の道路を効率的に利用できる。ベルトコンベ アを発信者と受信者で占有する技術とは大きな違いである。

    1975年頃のTCP/IPのパケットは通信速度が遅かったが、データ(文字、数字) のやりとりは十分可能であった。データは情報量が少ないからである。1983年に、 3.2.2で述べたイーサネットが開発され、近距離(500m)なら安価に10Mbpsの高 速通信速度のネットワークが使用可能になった。この環境で音声、写真、動画の転送も 可能にするアプリケーションプロトコルが開発された。

      3.2.5 IP電話技術の誕生

    3.1で述べたように、ホスト集中型コンピュータの能力は価格の二乗に比例するので、 企業はできるだけ大きなコンピュータを購入して、独自の通信規約でネットワーク接続 して多くの従業員に共用させていた。通信速度は、300-9600bpsと遅かった。

    これに対して、分散コンピューティングシステムは、イーサネットにWS、PCを TCP/IPプロトコルで接続する。WS、PCの性能は価格に比例はするが、二乗には比 例しない。大型コンピュータに比較して桁違いに安価である。小さい企業や組織は、1 台のWSをサーバにして、全従業員はサーバを共用し、ルータを介してISP(Internet Service Provider)に接続する。このシステムはホスト集中型と比較して、コストが 1/10-1/100に低下する。

    このTCP/IPを通信規約としたネットワーク、すなわちインターネットでメール、フ ァイル転送をはじめとするさまざまなアプリケーションプロトコルが開発された。文字 データの他に1995年には、使用されはじめた。音声はそれほどではないが、写真、 動画の情報はデータ情報に比較して、転送する情報が多いため当時のインターネットの バックボーンでは、遅くて使用できなかった。

    TCP/IPによって音声と動画が相互に転送できる技術は開発されたので、テレビ電話 やテレビ会議が可能なことはわかっていた。企業内LANでは、IP電話、テレビ会議は 可能であったが、なぜか導入した企業はなかった。一般家庭でIP電話、テレビ電話が 可能になるためには、FTTH(Fiber To The Home)が普及するまで、不可能とNTT は宣伝した。ADSLがP電話、テレビ電話を可能にしたのでNTTはうそを言った。 FTTHに投資すると、243万人の雇用と123兆円の市場がある、とも言った。

  • IP電話の仕組み

    4.1 IP電話の定義

    図4.1に示すように、インターネット技術(TCP/IP)を利用して音声を送受信する技 術や製品をVoIPといい、そのうちIP電話専用回線で音声を送受信するものをIP電話、 インターネットと同じネットワークで音声を送受信するものをインターネット電話と いう(5)。

    4.1.1 VoIP(Voice over Internet Protocol)

    VoIPとは、音声をパケット化してIP網で伝送する技術である。音声信号をパケット に変換することにより、ファイルや電子メールの送受信、ホームページの閲覧などに利 用されてきたデータ伝送と同様に音声をIP網で伝送することができる。標準化された TCP/IPプロトコルを使用するので、相互接続性も向上し、企業の内線電話や専用回線 の置き換えが始まっている。個人向けサービスを提供する通信事業者により個人にも 普及している。個人の電話回線からインターネットへ接続する部分にVoIPゲートウェ イ(4.2.1参照)を設置し、VoIPを利用して音声をIPパケットに変換してインターネット へ送り出す。通話相手の近くのVoIPゲートウェイで再度音声に変換して電話網に流し て通話を実現する。

    図4.1 VoIP、IP電話、インターネット電話の定義

    IP網では通話のための帯域保証はないため、音質が悪かったりタイムラグが生じた りするので、品質を犠牲にしてコストを削減するための技術と見られていたが、パケッ トの喪失、遅延、ゆらぎなどを小さくする技術が改良されたので、今後は音声電話の主 流となっていくものと思われる。

    4.1.2 IP電話

    インターネットやイントラネットなどのTCP/IPネットワークを使って音声データ をパケット化して送受信する技術である。電話網のインフラをLANなどのデータネッ トワークと統合することで、回線の稼働率を上げ、これまで使用していたPBXを除去 することで通信コストを下げるのが本来の目的である。社内LANを使った内線電話や IP電話網に応用されている。インターネット電話に比べると、音質や遅延時間の面で 品質が高いサービスを提供できる。

    途中のネットワークが通信事業者内のネットワークなのかインターネットを経由す るのか、電話機を使うのかパソコンを使うのかなど、IP電話と呼ばれるサービスの中 でもサービス間の違いは多い。IP電話で使用しているネットワークでは、1つの回線を 複数の会話が併用できるので、従来の電話よりも回線の使用効率がよく、その分従来の 電話よりも低いコストでサービスを提供できる。

      4.1.3 インターネット電話

    インターネット電話とはインターネット回線を用いて電話通信を行うサービスのこ とである。音声信号をディジタルデータに変換し、通信網の一部にインターネットを利 用することにより、距離によらず低価格(基本料金のみ)で電話サービスを提供できる。 すべての経路において一般のインターネットを利用するものをインターネット電話と 呼ぶ。

    利用者が直接負担する電話料金は、送話者からアクセスポイントまでとアクセスポイ ントから受話者までだけで済むため、双方の近くにアクセスポイントがあれば、遠距離、 国際通話利用する際でも、距離と接続時間に応じた従量課金が行なわれる電話網よりも 料金を安く抑えられるというメリットがある。通話の前に広告を聞くことで通話料が無 料になるサービスもある。

    インターネット電話は、通常の電話に比べて音質が悪く会話中に途切れたり、遅延が 生じたりするなどの欠点があったが、通信回線の大容量・高品質化や音声圧縮技術の進 歩などにより、こうした欠点は目立たなくなりつつある。

    4.2 VoIP機器

    4.2.1 VoIPゲートウェイ

    IP電話網と通常の電話交換網を接続する装置である。端末側において、人間の音声 をIPパケットにして送出する、あるいは受信したパケットを音声に変換する。そして、 既存の電話交換機と接続する。VoIPゲートウェイの機能としては、音声、画像のデー タフォーマットの変換、IP電話の呼制御、切断、電話交換網の呼制御、切断である。

    4.2.2 VoIPゲートキーパー(電話番号管理サーバ)

    利用者の電話番号とIPアドレスの対応表をもち、VoIPゲートウェイからの問合せに 対して電話番号をIPアドレスに変換したり、その逆を行う。電話機のネットワークへ の登録、呼制御、アドレス変換、電話機制御などの働きを持つ。

    4.3 IP電話に使用されるプロトコル

    4.3.1 RTP(Real time Transport Protocol)

    音声伝送時に使われるTCP/IPプロトコルの中の1つである。パケットロス対策や 伝送時間保証などは行われていないUDPタイプのプロトコルで、通常はRTCP(RTP Control Protocol)による通信状態レポートとセットで用いられる。RTCPによって実 効帯域幅や遅延時間などをサーバに送出し、サーバは報告された通信状態に合わせて RTPで送信するデータの品質を調整して送信するという形を取る。1996年に提唱さ れたプロトコルで、現在はQuicktimeやRealPlayerがRTPに対応している。

    4.3.2 H.323

    IP電話端末間を接続するために使われる呼制御プロトコルである。ITU-T勧告 H.323は、IP網上でマルチメディア通信サービス(テレビ会議システム)の標準化を 規格化したものである。これにより、音声や映像、あるいはデータ通信をリアルタイム に提供することができる。現在、H.323は企業における拠点間を結ぶVoIPゲートウ ェイ装置のプロトコルとして多く利用されている。

    VoIPを実現するために、今までは独自の技術が用いられ、製品間の相互接続性がな かったが、現在ではH.323が標準仕様として採用されている。H.323は、音声、ビ デオ、データなどのマルチメディア通信を行うためのプロトコルで、1996年11月 にITU-Tで標準勧告されている。

    最近では、標準化作業の影響もあり、VoIP機能を搭載したルータや交換機などが数 多く出荷され、フレームリレーやATMなどの回線でVoIPを実現する製品も続々と登 場している。また、企業内での内線電話としての利用だけでなく、CATV網での広域 VoIPの試験サービスも各地で始まっている。

    4.3.3 SGCP(Simple Gateway Control Protocol), MGCP(Media Gateway Control Protocol)

    いずれも外部の呼制御エレメントからVoIPゲートウェイを制御するためのプロトコ ルである。SGCPは、IPネットワークを横切る呼の確立、維持、切断を行う。MGCP は、DOCSIS標準(ケーブル・モデムの仕様)の上でVoIPを実現するための、メデ ィア・ゲートウェイ制御プロトコルである。大規模ネットワーク向けの次世代規格とし て位置付けられている。

    4.3.4 SIP(Session Initiation Protocol)

    VoIPを応用したインターネット電話などで用いられる、通話制御プロトコルである。 クライアントサーバー間で通信セッションを開始するためのプロトコルとして策定さ れた。1999年3月にIETF(Internet Engineering Task Force)により発表された規 格で、H.323など同種のプロトコルより後発のため、普及は進んでいない。転送機能 や発信者番号通知機能など、同種のプロトコルと比べて公衆電話網に近い機能を備え、 接続にかかる時間も短くなっている。また、各端末に割り当てられるアドレス形式が電 子メールアドレスの形式に近く、将来的には共通化も可能とされている。

    4.3.5 H.248/MEGACO(MEdia GAteway COntrol)

    2000年6月にITU-TとIETFで共同開発されたプロトコルである。IETFでは MEGACOとして策定されている。通信事業者などがH.323システムをよりも大規模 なIP網を構築できるように開発された技術である。ゲートウェイを設置して、一般電 話の公衆網とIP網を相互に接続する機能を持っている。

    4.4 IP電話の利用感と料金

    2002年からIP電話を使用した感想は、4.1.1で述べたようにIP電話は音声を1 と0の信号にデイジタル化、パケット化してIPネットワークでやりとりするので、パ ケットの喪失、遅延、ゆらぎなどが存在する。実際に使用して、会話がとぎれる、聞き 取れないなどの不具合は全く感じられない品質に改良されている。市外通話、国際電話 料金が市内通話料金と同じ3分8円程度なら許容できる。

    しかし、IP電話普及により、NTTの固定電話の料金収入が年々数%ずつ減少するの を見て、NTTが利用者とVoIPゲートウエイを接続する料金を値上げするという動き がある(6)。

  • 日本及び諸外国におけるIP電話の動向

    一部の国においては、既存の電話サービスに対する経済的な影響を懸念して、IP電 話を禁止している場合があるが、欧米諸国のようにインターネットの普及が進んでいる 国においては、IP電話に対する新たな規制を設けられている例はない。また、欧州ETSI のTIPHONプロジェクトや米国TIAを中心として、IP電話の標準化といった取組を積 極的に推し進めているところである。

    5.1 日本におけるIP電話の普及状況

    個人向けIP電話サービス加入件数は、図5.1に示すように、2002年末で前年比約 2.1倍の308万5000回線、2003年末には532万7000回線と2倍近い伸びと なった。2002年に市場を牽引したのはYahoo! BBである。Yahoo! BBでは、街頭 PRや低価格戦略とも相まって月20万人のADSL加入者を得るなど、IP電話サービ スがADSL加入者獲得の目玉商品になっている。2004年3月末のADSL回線契約 数シェアは、Yahoo!BB35.8%、NTT東日本20.4%、NTT西日本16.1%、イーア クセス13.4%、アッカネットワークス10.4%、その他3.9%である。業界全体では、 今後提携ISPによる相互接続の推進、中小ISPのIP電話サービスの開始、ブロードバ ンドユーザの順調な増加といった条件が整えば、加入件数は2007年末には2788 万1000回線と9倍増になる見通しである。

    図5.1個人向けIP電話サービス加入者

    IP電話システムの導入法人の数は、図5.2に示すように2002年末で前年比約2.2 倍の10100法人、2003年末には最大11980法人となった。2001年末から大幅 に増加したのは、サービス参入企業の増加や、ユーザ企業のIP-PBXへの移行が進んだ ためである。法人数は、2007年末には21550法人になる見通しである。 ユーザ企業は今後旧式のPBX(Private Branch eXchange)から、VoIPゲートウェイ タイプ、またはIP-PBXへと移行する。しかし、ユーザ企業の実績不足による不安や電 話性能の不足、ベンダ側のスキル不足などから、短期間での普及には至らないという予 測もある。

    図5.2  IP電話システムの導入法人の数

    IP電話関連機器の市場規模は、図5.3に示すように2002年末で前年比約1.3倍 の388億7000万円、2003年末には509億8000万円となった。2002年末ま ではVoIPゲートウェイ装置が中心だったが、今後はIP-PBXやIP電話機が市場を牽 引する。市場は2007年末には1280億円規模になる見通しである。

    図5.3  IP電話関連機器の市場規模

    2003年春にはNTTグループをはじめ、KDDIや日本テレコムとった既存の電話会 社が大手ISP(Internet Service Provider)ともどもIP電話の商用サービスを始めた。 2003年4月から首都圏、関西、中部、東海のCATV事業者の84社、局が広域連 携し、インターネット技術を利用した格安のIP電話サービスを提供する。CATVを利 用した全国的なIP電話は初めてで、サービス加入者間の通話はすべて無料、固定電話 への通話料金も定額とする。ADSL業者に続くIP電話への参入に普及が加速しそうで ある。

    5.2 欧州の状況

    EUでは、PC-to-PC、PC-to-Phone、Phone-to-Phoneいずれのタイプのイン ターネット電話であっても、EUが規定する音声電話通信(Directive 90/388/EEC) には該当せず、1998年1月EUの電話通信規定に適用するほど高度なものではない 判断されたため、インターネット電話への規制は行われていない。これは、インターネ ット電話の場合、トラフィックの状況によって予測し得ない遅延が生じるため、音声電 話であることの基準の1つとして挙げられているサービスのリアルタイム性を満たし ていると判断されなかったためである。一方、リアルタイムのIP電話サービスであれ ば、EU各国における関連の規制の対象となることとなる。

    オーストリアに本社を持つキウィ社は、固定回線VoIP技術を使った携帯電話サービ スをチェコ共和国、ハンガリー、スロバキアなどに展開している。また、スウェーデン では既存キャリアに対抗して、ワイヤレス・ローカル・ループ上で、データ+VoIPサ ービスを提供する新興のIP電話サービス事業者が現れている。

    デンマークの大手キャリアも自社傘下のISPを使い、ADSL網で実施IP電話サービ スを実施している。主にティーンエージャを対象に廉価なIP電話サービスを提供して いる。このケースでは、IP電話機は既存の電話機とは別に設置し、第2の電話として 子供用の定額電話として利用している。

    001年1月、事業者、ベンダ等によってVISIONng(Voice over IP Service Introduction New Generation)という組織が構成され、ETSIのTIPHONプロジェ クトの仕様に基づいた国際接続IPネットワーク上での電話サービスを展開している。 また、2001年9月には、国際間のUPTサービスのための国番号878の割当がITU-T SG2により承認された。今後の展開として、グローバルIP電話サービスの開始を実現 するために必要な評価を実施できるプラットフォームの提供を予定している。

    5.3 米国の状況

    米国では、インターネット電話における接続料が問題となっていた1996年7月に、 当時の米連邦通信委員会(FCC:Federal Communication Commission)委員長が、 インターネット電話には既存のルールを当てはめないと表明した。その後、1998年4 月、FCCは一転してITSP(Internet Telephone Service Provider)も接続料を支 払うべきとの報告書を議会に提出しているが、現在においても、FCCはIP電話に対す る規制を行っていない。

    図5.4 米国IP電話市場規模(資料出所:米国IDC)

    米国では1997年頃より、企業における拠点間通信の経費削減のためにイントラネ ット上で音声を送るVoIPを利用している。米国Sage Research社調査により、2001 年後半では全企業の50%がVoIPサービス利用をしているというデータがある。

    図5.4に示すように2000年頃より一般ユーザ向けのIP電話サービスが普及してき ている。一般ユーザ向けのIP電話サービスは、主にパソコンから一般電話、パソコン 相互間のサービスが主流となっている。IP電話サービス業者の収入源は、単に通信費 だけでなく、広告、プレミアムサービス、電子商取引等によって年々拡大傾向にある。

    5.4 韓国

    韓国では、急速に普及したブロードバンドネットワークのアプリケーションサービス としてIP電話サービスが急拡大している。IP電話サービスの市場規模としては、全人 口比11%に上り、現在もユーザが増加している。特に、PC to Phoneサービスを主 流としており、Dialpad、Web2Phone等がサービス提供している。特に規制を設け る動きもなく、IP電話端末が一般量販店で購入できる。

  • おわりに

    Yahoo!BBはIP電話ビジネスに参入し、通信業界に競争原理をもたらした。前報(7) で筆者らが、日本の情報通信基盤は総務省の護送船団方式で競争原理が働かず高い通信 料金がインターネットの利用を阻害していると述べた。

    1990年代に入って、インターネットが仕事、生活、娯楽などに使われてはいたが、 通信費が高くてインターネットが利用しにくかった。インターネットは世界中とやりと りするネットワークであるから、日本では通信費が高いからインターネットは利用しな いではいられない。通信料金を国際水準まで引き下げるためには、国民が選挙で政権交 代を実現し、総務省、NTT支配の通信行政を改めるしか方法はない、と前報で述べた が、政権交代はなくてもYahoo!BBがIP電話ビジネスに参入したことにより低料金化 は実現した。これは筆者にとってうれしい驚きであり再びその経緯を調査し、報告する 必要があると思った次第である。

    2-5章に述べたようにIP電話は、音声、動画をディジタルデータに変換して、TCP/IP プロトコルでパケット化し、インターネットと同じ技術あるいはインターネットのネッ トワークそのもので通話しようとするもので、使用する装置が電話交換機からルータに 変わっただけということができる。交換機とルータを同じ情報処理能力もつ機種の価格 を比較すると、ルータは約1/10である。交換機を使う場合とルータを使うときの配 線の長さは、家庭用はかわらないが、組織内はルータの方が1/5程度少ない。その上 ルータを使用した情報通信は、3.2.4で述べたように情報をパケット化して、高速道を 走るようなものだから、1本の道路で同時に多数の情報を通せるが、交換機を使った情 報通信はベルトコンベアを独占的に使うやり方なので、1本のベルトコンベアで1対 のユーザでしかデータしかやりとりできない。以上述べたように、IP電話は音声をパ ケット化してルータで処理するので低料金でサービスできるが、交換機を使う従来の電 話は高いのである。

    音声をディジタル化し、パケット化してやりとりすることは、ATM(Asynchronous Trasfer Mode)交換機でも実現しているのであるが、NTTや総務省の人々は使っただ け料金をとるという従量制があたりまえと思ってATM交換機に従量制の料金徴収の 機能をつけて開発したので、装置は複雑になり、その結果高価となり、それを使用した 通信料金は高いものとなった。これを国民に使わせようとした。

    Yahoo!BBは、高周波を搬送波として使用したADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)という高速伝送技術にTCP/IPを組み合わせただけの発想でいくつ かの特許を取得し、つなぎっぱなしでも低料金のインターネットとIP電話を提供した。 個人は高速インターネット+IP電話、企業においてインターネットは高速化していた が、ルータがPBXを排除することにより社の内外にかける電話料金が低料金化すると いうメリットがあるので、賢い国民がYahoo!BB を選択し5章に述べたような普及を 見た。東西NTTは、ADSLは使えないといってサービスしなかったが、国民がADSL を利用しはじめたのを見て、Yahoo!BBを後追いし始めた。

    このような日本のADSLを利用したインターネットの普及状況を見て総務省は、 2003年度の通信白書で日本の通信基盤は整った、あとは企業を含めた国民の努力で ITを利用したあらゆる面での国際競争力を向上する時代に入ったと記述した。しかし、 日本の情報通信ネットワーク基盤はNTT持株会社のもとにNTTグループは元のまま であるので、NTT独占状態である。世界の情報通信会社が地域、長距離、国際、携帯、 衛星通信の機能を持ち、高速で低価格の通信を提供しているのと競争するために、NTT が再統合するという声が聞こえてくる(6)。再統合によってさらに独占が進めば、4.4 で述べた接続料の値上げが容易になり、再び通信料金の高い国に戻ることになる。

    通信業は、鉄道業、道路業にかわり日本経済を支える重要な産業基盤になったので、 国民は通信業をよく理解し、国民のための通信ビジネスをする企業を助け、旧弊な通信 業者を駆逐する必要がある。

    参考文献

    1. 城水元次郎:電気通信物語、オーム社(2004)
    2. 町田徹:巨大独占、新潮社(2004)
    3. (財)金融情報システムセンタ編:図説金融情報システム、財経詳報社(1994)
    4. R.X.クリンジリ著、藪暁彦訳:コンピュータ帝国の興亡上、アスキ出版局(1993)
    5. 日経NETWORK、日経バイト、日経コミュニケーション、日経ソリューション編: IP電話&無線LANブロードバンド徹底ガイド、日経BPムック(2003)
    6. 日経コミュニケーション、2003年3月3日号p.78
    7. 永井武、関英基:新潟国際情報大学情報文化学部紀要、第3号(2000),p.219